17年6月17日(土) reedit: 6/18, 6/21 加筆・訂正各1箇所(下線部)
その1からの続きです。
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倉木山周辺(滑落事故検証)161123-242回目の滑落は2007年の10月下旬です。
知人のTさんと大分県南部の倉木山に登りました。
さらに時間があったので、長い尾根を辿りました。
前障子から続くと思われる山塊との鞍部の手前まで行って、午後2時過ぎに引き返しました。
帰りは木の元から枝先へ辿るように支尾根が派生しています。
間違って右手の支尾根に何度か迷いこんで時間をロスしました。
倉木山をに近づいてから、往きに下った足場の悪いところを避け、右に迂回しました。
山頂直下の尾根に差し掛かった頃、Tさんはテープがあったと尾根を越えて進みます。
山頂を指差してこちらに向かうように促したのですが、構わず進みます。
往きに上った杉林より手前に道があったと言われていたので、その道だと思われたのかもしれません。
山腹を巻いて道が続いているのかもしれないと思い、そちらに向かうことにしました。
日も暮れたのでキャップライトをつけます。
Tさんの後を追って進みます。
やがて道は幅の広い尾根を緩やかに下ってゆきます。
次第にテープも少なくなり、最低鞍部に差し掛かりました。
このまま進めば烏嶽のほうに上ってしまうと思いましたので、
左に下ろうと提案しました。
ここで引返すことを提案しなかったことが甘かったです。
方向は間違っていなかったのですが、すごい下り坂で、
上を見ますと岩が積み重なって岩屋のようになっているところを下っていました。
Tさんが見かねて山腹をトラバースするように促します。
急斜面を右手に登り上がると、感じの良い尾根に出ました。ここでビバークしようと提案しますが、先に進むつもりのようです。
尾根から感じの良い杉林を通り下って行きます。
暗くなったのでキャップライトをつけている私が先行することにしました。
いつの間にか尾根を外れ、斜面を進んでいます。
左が急坂になったところで、5mほど滑落します。土の感触は柔らかです。
Tさんはよく止まったねえといわれました。
軍手を付けます。
Tさんは谷に向かっていることを注意します。
ここで思い切って尾根まで上るべきでしたが、一寸上っただけで踏み跡を辿ってトラバースしていました。
やがて水音が聞こえてきました。
踏み跡は怪しくなり、沢を避けるために右に高巻きしようとしましたが、すでにかなりの急斜面で歩いては登れません。
Tさんは枯れ木をつかまないようにと注意してくれます。
木の幹の根元の上側に右足を載せ体重をかけると木の幹は一気に崩れ落ちました。
根元から枯れて浮いていたのです。
支えを失ってそのまま腹ばいの姿勢で滑落していきます。
軍手で止めようとするとザラザラしますが、はねつけられます。
どんどん加速してすごいスピードで下っていきます。
何処に行き着くか、最後まで目覚めていようと思いました。途中から空中に投げ出され、沢の河床に後ろ向きに着地です。
ザックのお陰で後頭部は保護されました。
右に回転して右側頭部をガツンと打って目からバチッと火が出ます。
さらに足が高く持ち上げられ、後ろと右にさらに回転して足から沢の石の間に投げ出されました。
ストックは右手にかかっています。
腕をねじったりしていなくて幸いでした。
Tさんは上で叫んでいます。
ライトは私しか持っていないのでブラックアウトです。
真っ暗で身動きできないようです。
岩を掴んでいると言われます。
暗いヘッドライトで照らしてみました。
多少は足場が見えたようです。
私は動こうとしますが左足がききません。
ストックを突いて片足で戻っていきますと垂直に近い岩が迫っています。
あそこを10m程滑落したようです。
左に回りますと傾斜のゆるい岩があります。
そこを登ろうとしますが、片足ではどうにもなりません。
さらに左に下りますと上から「そっちは行きすぎ」と言われます。
やがて目が慣れたのか、その緩斜面の岩を下って来られるようです。
下に来ないようにと言われ、しばらくするとドンと音がします。
見るとTさんがうつ伏せに蹲っています。
途中から数mジャンプしたようです。
ひざ下を怪我しています。膝を外れていてよかったと言われます。
消毒して応急手当てをします。
後で聞くところ、
6針も縫ったそうです。
その夜はその河原でビバークしました。
翌朝早く、ありったけのテーピングテープで足を固定して、6時半ごろ出発して河原沿いに下ります。
Tさんは今日仕事があるので、先に帰って下さいと言いますが、そういう訳にはいかないと言われます。
Tさんは先に行って待っています。途中からザックを持ってくれました。
さらに先に偵察に下って林道に出られることを確かめて標識のある所で待ってくれていました。ここから先は上ってきた登山道です。
1時間半ほど下ったそこで、Tさんにもう一度帰ってくれるように頼みます。
もう先の見通しはついたし、幸いにも私の足の状態はひどいとは思っていません。
やっと私の申し出を聞いてくれました。
ザックは車まで運んでくれると言います。ありがたいことです。
ペットボトルを一つ残してもらって「お世話をかけます」と言って別れました。
先を急ぐ必要がなくなって緊張から解放されました。
同時に誰か知り合いを呼ぼうかという考えがチラと浮かびます。
しかしせっかくのチャンス、自力で下ってみたいと思い直しました。
マイペースでゆっくり下ろうと思いました。
喉はカラカラに乾いています。ペットボトルの水はすぐになくなりました。
テープで固定した足が張って来て痛みます。
途中で左の沢縁に小屋を見ました。広い芝生の庭があるのでゲートボール場か、
木材を処理するための杣小屋かと思いました。
その小屋の少し下から左手に沢に下りました。
上を見ると小屋などはありません。
あれは幻覚だったのでしょうか。
沢の水を飲み、ペットボトルを満たし、テープをはがし、沢水にしばらく足をつけます。
気持ちがよいです。
足を乾かしてから山道に戻り、さらに下ります。
上向きになって左足を前に浮かし、両腕と右足で体を支えながら休み休み少しずつ下ります。
下の方、左手の浅い沢の対岸に林道の終点が見えます。
終点は2つ見え、2つはつながっているように見えます。
車が2台見えます。白い車で窓も白くブラインドされています。
下ってそのあたりで沢に下ってみます。
あったのはダムと大きな石だけです。
また騙されました。
道を下ると時々黒灰色の重い石があります。磁鉄鉱なのでしょうか。
さらに下ると再び標識があります。気が付きました。
ここは登って来る時最初に見た標識です。
そこは三叉路で左に浅い沢を渡れば少し登って最後に下り、登山口に着きます。
上りは膝をつけてハイハイです。
枯葉や石を拾ってみますと、中ほど一列に文字が書かれています。漢字のようです。
このあたりの人が祈願のために書いたのかと思いました。
後で思ったことですが、これも幻覚でしょう。そして文字はお経のようです。
このようにして9時間半かけて登山口に戻りました。
自力下山できたことに満足しています。
翌日整形外科を受診しました。
着地の時の軸圧のためでしょう。左足の踝の上側の骨を骨折していました。
脱臼骨折という診断です。が、骨の移動はないということで、そのままギブスで固定して、手術を免れました。
3か月近く松葉杖をつけましたが、一度もひどく痛むことはなく、その後長く歩くときはストックを使いリハビリに努めました。
骨折は関節の中に達していますので、完治にはもう少し時間がかかりました。
落下地点が幸いにも落ち葉と砂礫の混じった柔らかい所だったのでショックは吸収されたようです。
岩の上にでも落ちていたらどうなっていたか分かりません。
私にとってはこれは実は神様の恵みだと思っています。
仕事を放り出して山ばっかり登っていたので、神様がストップをかけてくれたのです。
とは言え、知らない山を夜歩くのは無謀です。日が暮れないうちに下ろうというTさんの提案を聞かず、遠くまで誘った私のミスでした。幸いTさんが重症ではなかったのがせめてもの幸でした。
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